表彰等

2008年度功労賞

日本ソフトウェア科学会は,これまでの学会 活動に対して特に貢献が顕著と認められる会員に対し功労賞を,ソフトウェア 科学の分野における発展に対して特に貢献が顕著と認められる会員に対しフェ ローの称号を授与して,その功績を称える制度を2004年度に設けました.
功労賞,フェロー称号の授与は2年ごとに行いますが,第3回の選定にあたる今 年度は,8月12日に開催された功労賞・フェロー選定委員会の審議結果を受け, 9月の理事会において2名の会員に功労賞を,3名の会員にフェローの称号 を授与することとしました. なお,功労賞・フェロー選考委員会の構成は以下の通りです.

大沢 英一(委員長),上田 和紀,大野 豊,片山 卓也,佐藤 周行,近山 隆,土居 範久,中田 育男,本位田 真一,村田 真,湯淺 太一

2008年度功労賞受賞者
阿草 清滋氏
米澤 明憲氏
 

略歴・授賞理由

阿草 清滋氏

略歴

1972年京都大学大学院工学研究科電気第2専攻修士課程修了.同大学院博士課程を 1974年途中退学し,京都大学工学部情報工学科助手.同講師,助教授を経て, 1989年名古屋大学工学部電気学科教授.同情報工学科教授,名古屋大学情報メディア 教育センター教授などを経て,2001年より名古屋大学大学院情報科学研究科情報 システム学専攻教授.

その間,1999年から2001年名古屋大学情報連携基盤センター長, 2001年から2005年名古屋大学評議員,2002年から2005年名古屋大学大学院情報科学 研究科長を勤め,現在名古屋大学評議員,名古屋大学情報連携本部副本部長.

専門は ソフトウェア工学で細粒度リポジトリを用いたCASE(Computer Aided Software Engineering)プラットフォームの研究を進めている.文部科学省の振興調整費プロジェクト として高信頼ウェブウェア構築に関する研究プロジェクト,組み込みシステムソフトウェア 人材育成,先導的情報通信人材育成プロジェクトなどのプロジェクトを推進している. 学会活動としては日本ソフトウェア科学会の理事,理事長,情報処理学会の理事を務め, 現在は情報処理学会の教育部会のSE部会長として,ソフトウェアエンジニアリング 教育カリキュラムの議論を進めている.

授賞理由

阿草清滋氏は日本ソフトウェア科学会の設立準備期より長年にわたってその運 営に携わり,本学会の第6代理事長として学会の発展に努められた. 同氏は日本を代表するソフトウェア工学の研究者である.

研究歴の初期では始まったばかりの要求工学に着手し, 要求の定義・仕様化法の議論が多いなか,とくに要求の検証に注目した研究をすすめられた. 次いで,システム名Sapidが著名になった細粒度ソフトウェアリポジトリの研究開発を 指揮された.これは当時(1990年代)盛んであったCASEツールの確固たる基盤を与え, プログラム解析の精密化をはかるものであった.さらにはウェブをベースとする情報 システム(ウェブウェア)について,それが従来のソフトウェアとは異なる新しい 高信頼化技術を必要とすることに着目し,その生成技術の開発を文部科学省e-Societyの プロジェクトとして推進された.

同氏はその研究歴を通して,理論を実効ある現実的技術と して定着させ,作られるソフトウェアの正当性をいかに確実にするか,すなわ ち本学会英語名称末尾にあるSとTの連係融合をはかることに努力されたといえる.

阿草清滋氏は以上のように,日本ソフトウェア科学会の草創期より顕著な貢献 があり,また,本学会およびその対象とする学術研究領域に対する功績は多大で ある.その功績を称え,日本ソフトウェア科学会は同氏に功労賞を授与する.


 

米澤 明憲氏

略歴
1970年東大工学部卒.1977年MIT計算機科学科よりPh.D. 取得. MIT計算機科学研究所および人工知能 研究所において並列・分散計算モデルの研究に従事,「並列オブジェクト」概念の パイオニア.帰国後,東工大を経て,1988年に東大コンピュータ科学専攻教授に就任. 現在,東大大学院情報理工学系研究科教授および情報基盤センター長. 「並列オブジェクト」の先駆的研究により,1999年にACM フェロー.日本ソフトウエア 科学会理事長,ドイツ国立情報科学技術研究所(GMD)科学顧問,などを歴任.2001年より 3年間内閣府総合規制改革会議委員,2005年より産総研情報セキュリティ研究センター 副センター長も兼務.2006年より,米国マイクロソフト社の学術顧問委員会TCAABメンバー. 主著に『ABCL: an Object-Oriented Concurrent System』(MIT Press 1990)などが ある.オブジェクト指向の分野へ顕著な技術的貢献をした個人に与えられるダール-ニゴール賞を2008年に 受賞(世界で4人目).
授賞理由
米澤明憲氏は日本ソフトウェア科学会の設立時より長年にわたって本学会の運営 に貢献すると共に,本学会の第4代理事長として,学会の発展に尽力され,そ の功績は極めて大きいものである.同氏は,1974年からMIT計算機科学研究所 および人工知能研究所において研究助手として並列・分散計算モデルの研究に従事して以来, 東京工業大学理学部助教授,教授を経て,1988年東京大学理学部教授となられ,その後も, 並列分散計算言語ABCLなどの開発を通じて「並列オブジェクト」概念のパイオニアの一人 としてご活躍された.

1999年にはこれらの業績に対して,ACM フェローの 称号を授与され,また本年オブジェクト技術の分野で世界で最も権威ある,ダール-ニゴール 賞をアジアではじめて受賞された.現在は東京大学情報基盤センター長も務められている. この間ドイツ国立情報科学技術研究所(GMD)科学顧問,政府情報科学 技術委員会委員,通産省リアルワールドコンピューティング(RWC)プロジェクト評価推進委員, など科学技術分野で貢献された.また,内閣府総合規制改革会議で教育分野の主査として 改革に尽力された.科研特定領域研究では,「社会基盤としてのセキュア コンピューティングの実現方式の研究」の研究代表者としてもご活躍された.

以上のように,米澤明憲氏は日本ソフトウェア科学会の設立および草創期より 継続的に本学会に貢献してこられた.その功績を称え,日本ソフトウェア科学 会は同氏に功労賞を授与する.