表彰等

特別功労賞(平成15年度)

20周年特別功労賞発足の経緯と表彰者の紹介

阿草 清磁 (コンピュータソフトウェア Vol.20 No.6, Nov. 2003)  

日本ソフトウェア科学会は本年,設立20周年の節目を迎える.学会の会員数は この数年微減を続けており,学会の運営は厳しいものがある.しかし,学会の設 立には今以上の多くの困難があり,今日の学会に至るには多くの諸先輩の努力 が必要であった.これらの歴史的な動きについては本号の特別記事等に垣間見 ることができる.また,学会の設立に伴って,各種規約の制定,会員確保のため の広報活動,学会の顔としての学会誌の発刊,各種研究会の企画・発足など, 多くの作業があり,多くの方々の献身的努力により今日に至っている.  理事会では,昨年来,これまでの学会運営に多大の努力を頂いた方々に学会 として何らかの謝意を表する機会を持ち,また,多くの会員にそのことを認識頂く ことを検討してきた.多くの学会で功労賞,業績賞,フェロー称号などが用意され, 学会活動に貢献された諸氏を表彰する制度がある.これにならって本学会として も功労賞,フェローの制度の制定を議論してきた.これらの制度については先日 の理事会にて決定し,前回の評議員会にて報告した.この制度に基づいて功労 賞の表彰を20周年大会にて行うことを検討したが,規則に定められた運営委員 会などを勘案すると時間的な制約が多いことから,今回は理事会推薦で特別功 労者表彰の形をとることとした.理事会推薦ではあるが,今回の受賞者は定め られた規程にのっとっても当然表彰されるべき方々を推薦できたと考えている.  本年の20周年事業として特別功労者として以下の4名を表彰することとし,愛知 県立大学で開かれた本年の全国大会で授賞式を執り行った.

平成15年度 特別功労賞 受賞者
大野豊 氏
片山卓也 氏
土居範久 氏
中田育男 氏

 

表彰理由

大野豊 氏

1924年に東京都でお生まれになり,東京大学工学部機械工学科を1946年にご卒 業後,運輸省鉄道技術研究所に奉職され,鉄道の自動制御,オンラインリアル タイムシステムの研究に従事されました.みどりの窓口や新幹線列車運行管理 システムなどの開発にもご尽力され,その功績から1971年紫綬褒章を始め多くの 表彰を受けられました.1972年からは京都大学情報工学科の教授として,ソフト ウェア工学の研究分野の確立に大きな貢献をされました.京都大学を定年退職 後は,立命館大学で理工学部長としてBKC(びわこ・くさつキャンパス)へ の移転に際して,その経営手腕を発揮されました.現在は関西TLO社長として 技術移転を主とした産学連携の支援を行っていらっしゃいます.日本ソフトウェ ア科学会への貢献は,その設立を企画し,各方面への働きかけを行い,1983年 に本学会設立と同時に初代理事長として,学会の基礎を築かれたことで,その 功績は極めて大きいものであります.よって日本ソフトウェア科学会理事会は, 大野豊氏に特別功労賞をお贈りし,その功労に謝意を表すこととしました.

片山卓也氏

1939年に神奈川県でお生まれになり,東京工業大学理工学部電気工学科,同大 学院修士課程をそれぞれ1962年,1964年にご卒業後,日本IBM株式会社を経 て,1967年より東京工業大学工学部電子物理工学科,1974年からは同情報工学 科に奉職されました.また,北陸先端科学技術大学院大学の創設にご尽力され, 1991年より北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科教授として,また,2 度,同研究科長を務め,現在は図書館長としてご活躍であります.東京工業大 学,北陸先端科学技術大学院大学ではソフトウェア開発の形式化に関する研究 に従事され,ソフトウェア科学の発展に大きく寄与されております.科研特定 領域研究では「発展機構を備えたソフトウェアの構成原理の研究」研究代表者 として,また,日本学術振興会未来開拓研究プロジェクト「ソフトウェア開発 方法論」プロジェクトリーダとして,日本のソフトウェア科学の発展の推進役 として活躍されてこられました.日本ソフトウェア科学会への貢献は,1991年 より本学会の第3代理事長として,学会の発展に尽力されたことで,その功績 は極めて大きいものであります.よって日本ソフトウェア科学会理事会は,片 山卓也氏に特別功労賞をお贈りし,その功労に謝意を表すこととしました.

土居範久氏

1939年に兵庫県でお生まれになり,慶應義塾大学工学部管理工学科,同大学院 博士課程をそれぞれ1964年,1969年にご卒業後,慶應義塾大学情報科学研究所 に奉職されました.慶應義塾大学ではオぺレーティングシステムやプログラミ ング言語の研究に従事され,国産メーカのタイムシェアリングシステムやコン パイラの開発をお引き受けになるなど,日本のシステムプログラムの開発の先 陣を切ってこられました.また,ソフトウェア科学の分野の最初の日本学術会 議会員として,日本の科学技術政策の中でソフトウェアの重要性を認めるよう 努力されてきました.その成果として国立情報学研究所が設立されたことは周 知のとおりです.これらの功績により,各省庁の大臣表彰や学会功績賞等を受 けておられます.現在は中央大学理工学部教授として,情報セキュリティやソ フトウェア開発法の研究を進めておられます.日本ソフトウェア科学会への貢 献は,その設立に参画され,1983年の本学会設立時に初代学会誌編集委員長と して,学会の顔である学会誌の発刊に尽力されたことで,その功績は極めて大 きいものであります.よって日本ソフトウェア科学会理事会は,土居範久氏に 特別功労賞をお贈りし,その功労に謝意を表すこととしました.

中田育男氏

1935年に長野県でお生まれになり,東京大学理学部数学科,同大学院修士課程 をそれぞれ1958年,1960年にご卒業後,日立製作所中央研究所に奉職されまし た.日立製作所中央研究所では言語処理系の研究に従事され,当時世界中で開 発競争が盛んであったFORTRANコンパイラの開発に尽力され,HITAC103用 FORTRAN IIコンパイラ,HITAC5020用FORTRAN VIコンパイラを提供されました が,それらは世界最高水準のものとして注目されました.また,1979年より筑 波大学電子・情報工学系教授,1997年より図書館情報大学教授を勤められ,現 在は法政大学情報科学部教授として教育研究に尽力されております.文部科学 省科学技術振興調整費に基づくプロジェクト「並列化コンパイラ向け共通イン フラストラクチャの研究」の研究代表者として,また,多くの大学で教科書と して採用されている先生の著書などにより,日本のコンパイラ技術の向上に貢 献されています.日本ソフトウェア科学会への貢献は,1988年より第2代の本 学会学会誌編集委員長として,学会誌編集に尽力されたことで,その功績は極 めて大きいものであります.よって日本ソフトウェア科学会理事会は,中田育 男氏に特別功労賞をお贈りし,その功労に謝意を表すこととしました.