表彰等

2019年度基礎研究賞

2019年度基礎研究賞の授与について

ソフトウェア科学分野の基礎研究において顕著な業績を挙げた研究者に対して,基礎研究賞を授与しその功績を称える制度を2008年度に設けた.12年目にあたる2019年度は,以下の2名を選定した
 

2019年度の基礎研究賞選定委員会の構成は次の通りであった.
増原英彦(理事長)千葉滋(編集委員長)
河野健二  風間一洋  井上克郎  五十嵐健夫  筧捷彦
 

五十嵐淳氏 (京都大学)

授賞業績:オブジェクト指向言語の基礎理論および先進的なプログラミング機構の研究
授賞理由
五十嵐淳氏はプログラミング言語理論,特にオブジェクト指向言語に関する研究における日本の第一人者である.五十嵐氏は1999年にJava言語のモデルであるFeatherweight Javaを提案し,それを通じてオブジェクト指向言語の基礎理論を展開した[1].また,Featherweight Javaを通して型総称性(Generics)の機構とそのコンパイル方式の定式化を行い,現在ワイルドカードとして知られている機構の提案とその正しさの証明を行った[2].この定式化の対象となった型総称性とワイルドカードの機構はJava 5に取り入れられており,五十嵐氏による研究がその設計と実装の理論的基盤を与えることに貢献している.五十嵐氏は,これらの貢献により日本IBM科学賞,文部科学大臣表彰若手科学者賞,マイクロソフトリサーチ日本情報学研究賞,オブジェクト指向プログラミング研究の分野で国際的に最も権威があるDahl–Nygaard Junior Prizeを受賞した.また,その後も五十嵐氏は,静的型付けと動的型付けを単一の言語中で双方用いることのできる漸進的型付言語の研究[3]や型情報にソフトウェア契約に関する情報を組み込んだ顕在的契約計算に関する研究[4],プログラム検証に関する研究[5]等において重要な業績をあげると共に,優秀な人材を輩出している.コミュニティへの貢献という面においても,Asian Association for Founda-tion of Softwareの運営委員長やACM SIGPLAN International Conference onFunctional Programming, ACM SIGPLAN Workshop on Partial Evaluationand Program Manipulationの運営委員,PEPM 2019, APLAS 2016, COP 13,FOOL 2008におけるプログラム委員長を務めてきた.また,日本ソフトウェア科学会第31回大会のプログラム委員長や日本ソフトウェア科学会プログラミング論研究会主査等を務めている.以上の顕著な業績と貢献により,日本ソフトウェア科学会は,五十嵐淳氏に基礎研究賞を授与することとした.

出典:
1. Atsushi Igarashi, Benjamin C. Pierce, Philip Wadler: Featherweight Java:a minimal core calculus for Java and GJ. ACM Trans. Program. Lang. Syst.23(3): 396-450 (2001)11
2. Atsushi Igarashi, Mirko Viroli: Variant parametric types: A flexible sub-typing scheme for generics.  ACM Trans.  Program.  Lang.  Syst.  28(5):795-847 (2006)
3. Atsushi Igarashi, Peter Thiemann, Yuya Tsuda, Vasco T. Vasconcelos,Philip Wadler: Gradual session types. J. Funct. Program. 29: e17 (2019)
4. Taro Sekiyama, Yuki Nishida, Atsushi Igarashi: Manifest Contracts forDatatypes. POPL 2015: 195-207
5. Kohei Suenaga, Ryota Fukuda, Atsushi Igarashi: Type-based safe resourcedeallocation for shared-memory concurrency. OOPSLA 2012: 1-20

 
 

門田暁人氏 (岡山大学)

授賞業績: 実証的手法を用いたソフトウェア信頼性に関する研究ならびにソフトウェアプロテクションに関する研究
授賞理由
門田暁人氏はソフトウェア工学の分野,特に実証的な手法によるソフトウェア信頼性やバグ予測に関する研究,ならびにソフトウェアプロテクションの研究を幅広く行い,数多くの業績をあげている.実証的な手法では,コードクローンの存在と信頼性の関連を分析し,予想に反して,コードクローンが存在するモジュールの信頼性がより高いことを示している[1].また,バグ予測に関する研究では,テストのコストを考慮した評価[2],テスト工数削減量の見積もり[3]や,データの偏りの解消[4]などにより,バグ予測技術の実用化への道筋を示している.さらに,被験者実験によりコードレビュー時の視線の移動を分析し,効率よくバグ発見を行うための視線の移動パターンを発見する[5]など,ユニークな研究も行っている.一方,ソフトウェアプロテクション技術として,Javaのクラスファイルに擬似メソッドを電子透かしとして挿入するWatermark法を提案している[6].また,挿入を行わずに不正利用を検出するBirthmarkという概念を定式化し,その具体的な方法を提案している[7].これらの提案とともに,電子透かし挿入やプログラム難読化のツールを開発し公開している.このように門田氏は,既存のソフトウェア工学に様々な実証的な手法を取り入れ,新たな研究分野として開拓するなど,この分野に多大な貢献をしている.また,種々の国内外の会議の委員長や委員を務めるなど,分野の発展に大きく寄与している.よって,本学会は門田暁人氏に基礎研究賞を授与することとした.

出典:
1. A. Monden, D. Nakae, T. Kamiya, S. Sato, K. Matsumoto, Software Qual-ity Analysis by Code Clones in Industrial Legacy Software, 8th InternationalSoftware Metrics Symposium, pp. 87-94, 2002.
2.  Y. Kamei, S. Matsumoto, A. Monden, K. Matsumoto, B. Adams, A.E. Hassan, Revisiting Common Bug Prediction Findings Using Effort-AwareModels, 26th International Conference on Software Maintenance, pp. 1-10,2010.
3. A. Monden, T. Hayashi, S. Shinoda, K. Shirai, J. Yoshida, M. Barker, K.Matsumoto, Assessing the Cost Effectiveness of Fault Prediction in Accep-tance Testing, IEEE Transactions on Software Engineering, Vol. 39, No. 10,pp. 1345-1357, 2013.
4. K. Bennin, J. Keung, P. Phannachitta, A Monden, S Mensah, Mahakil:Diversity Based Oversampling Approach to Alleviate the Class ImbalanceIssue in Software Defect Prediction, IEEE Transactions on Software Engi-neering, Vol. 44, No. 6, pp. 534-550, 2017.
5. H. Uwano, M. Nakamura, A. Monden, K. Matsumoto, Analyzing Individ-ual Performance of Source Code Review Using Reviewers’ Eye Movement,Eye Tracking Research & Application Symposium, pp. 133-140, 2006.
6. A. Monden, H. Iida, K. Matsumoto, K. Inoue, K. Torii, A Practical Methodfor Watermarking Java Programs, 24th Computer Software and ApplicationsConference, pp. 191-197, 2000.
7. H. Tamada, M. Nakamura, A. Monden, K. Matsumoto, Design and Eval-uation of Birthmarks for Detecting Theft of Java Programs, IASTED Inter-national Conference on Software Engineering, pp. 569-574, 2004