表彰等

2024年度基礎研究賞・業績賞

2024年度基礎研究賞・業績賞の授与について

日本ソフトウェア科学会は, ソフトウェア科学分野の基礎研究において顕著な業績を挙げられた研究者に対して基礎研究賞を授与し, その功績を称える制度を2008年度に設けました. 2023年度には, ソフトウェア分野におけるその他の顕著な業績を挙げた方に対して業績賞を授与し, その功績を称える制度を設け, 基礎研究賞と合わせて毎年2件程度を選定することとしました. 2024年度は, 基礎研究賞・業績賞選定委員会の審議結果を受け, 2025年5月23日の役員会において, 1名に業績賞を, 1名に基礎研究賞を, それぞれ授与することを決定いたしました.

選定委員会の構成は以下の通りです.

高田広章(理事長), 沢田篤史(編集委員長), 伊藤貴之, 大須賀昭彦, 小林直樹, 丸山宏, 門田暁人.


【業績賞】原田康徳氏(合同会社デジタルポケット)

授賞業績:
プログラミング教育用言語Viscuitの開発
授賞理由:
原田康徳氏はプログラミング教育用言語Viscuit[1-4]の開発者であり,低年齢層のプログラミング教育の実践者として顕著な貢献を為している.Viscuitは,図形書き換え言語に曖昧さを導入したものであり,書き換え過程を,ゲームや動く絵本などのインタラクティブなアニメーションとするプログラミング言語である.開発にあたって,原田氏は,2003年に発表された初期バージョンから現在に至るまで,現場でのフィードバックを設計に反映し続け,未就学児や,特別に支援が必要な児童でもストレスなく操作可能なインタフェースを提供するという,言わばインクルーシブデザインを取り入れたプログラミング言語開発を実践し続けている.また,Viscuitを用いた教材にコンピュータサイエンスの基礎をふんだんに取り入れている.これらの結果,Viscuitの採用数は,2020年から始まった小学校におけるプログラミング教育において,MITが開発しているScratchについで2位である(文部科学省:「学校における小学校プログラミング教育の実施レポート」(https://www.mext.go.jp/miraino_manabi/content/507.html)を独自集計).なおこれらの事例には特別支援教育が含まれることも特筆される.また原田氏は数々のプログラミングワークショップを開催し6000人以上の子どもたちにプログラミングの可能性と楽しさを伝えてきており,現在もその数は増え続けている.以上の顕著な業績と貢献により,日本ソフトウェア科学会は,原田康徳氏に業績賞を授与することとした.
出典:

[1] 原田康徳, 加藤美由紀, Richard Potter: Viscuit: 柔軟な動作をするビジュアル言語, 第11回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ予稿集, 日本ソフトウェア科学会, pp.47-56, 2003.

[2] Yasunori Harada, Richard E Potter: Fuzzy rewriting - soft program semantics for children. HCC ’03: Proceedings of the 2003 IEEE Symposium on Human Centric Computing Languages and Envinronments, pp.39-46, 2003.

[3] 原田康徳, 勝沼奈緒実, 久野靖: 公立小学校の課外活動における非専門家によるプログラミング教育, 情報処理学会論文誌, 55(8), pp.1765-1777, 2014.

[4] 原田康徳: ビジュアルプログラミング言語ビスケット(Viscuit)の紹介, コンピュータソフトウェア, 32(1), pp.18-26, 2015.


【基礎研究賞】井上克巳氏(国立情報学研究所)

授賞業績:
知識表現・推論に関する基礎研究
授賞理由:
井上克巳氏は一貫して人工知能(AI)基礎について研究を続けてきており, とりわけ記号による知識表現・推論と機械学習に関する分野で40年以上にわたって国際的に活躍している. これまで, 一階述語節理論において完全であるような演繹推論[1]及び帰納推論[2], 論理プログラミングにおける否定や選言の意味論[3], アブダクションによる知識発見[4], ブーリアンネットワークの論理的解釈[5] 及び帰納推論[6]など, 記号的知識の推論・学習で独創的な理論・手法を数多く提案してきた. 近年は, 深層学習と記号推論を融合したニューロシンボリック推論・学習に関する研究に取り組み成果を挙げている[7]. 同氏の研究の多くは, 観測事象やAIシステムの出力結果を説明するための基礎理論に関係しており, 近年重要となっている説明・解釈可能AIのための厳密手法や近似手法を提供している. また理論的研究にとどまることなく, 自身の研究成果をシステム生物学やレジリエント・システムに応用し, 信頼できるAIシステムを設計するための基礎を築いている. 研究成果として, これまでに機械学習分野トップジャーナルMachine Learning 誌 12 篇を含む査読付きジャーナル論文120編, AI トップ会議IJCAIにおける発表論文18篇を含む査読付き国際会議論文260編を発表しており, 記号に基づくAI研究では世界でもトップレベルの業績を残している. こうした研究は国内外で高く評価され, 国際会議における最優秀論文賞を8度受賞し, 招待講演を50回以上行っている. 以上の顕著な業績と貢献により, 日本ソフトウェア科学会は, 井上克巳氏に基礎研究賞を授与することとした.
出典:

[1] Katsumi Inoue: "Linear resolution for consequence finding", Artificial Intelligence, 56(2-3):301-353, 1992.

[2] Katsumi Inoue: "Induction as consequence finding", Machine Learning, 55(2):109-135, 2004.

[3] Katsumi Inoue, Chiaki Sakama: "Negation as failure in the head", Journal of Logic Programming, 35(1):39-78, 1998.

[4] Katsumi Inoue, Andrei Doncescu, Hidetomo Nabeshima: "Completing causal networks by meta-level abduction", Machine Learning, 91(2):239-277, 2013.

[5] Katsumi Inoue: "Logic Programming for Boolean Networks", The 22nd International Joint Conference on Artificial Intelligence (IJCAI2011), pp.924-930.

[6] Katsumi Inoue, Tony Ribeiro, Chiaki Sakama: "Learning from interpretation transition", Machine Learning, 94(1):51-79, 2014.

[7] Kun Gao, Katsumi Inoue, Yongzhi Cao, Hanpin Wang: "A differentiable first-order rule learner for inductive logic programming", Artificial Intelligence, 331(104108), 2024.