表彰等

2012年度基礎研究賞

2012年度基礎研究賞の授与について

2012年度理事長 柴山 悦哉

日本ソフトウェア科学会は,ソフトウェア科学分野の基礎研究において顕著な業績を挙げられた研究者に対して基礎研究賞を授与し,その功績を称える制度を2008年度に設けました.基礎研究賞は毎年2件程度の業績を選定し,主要な貢献のあった研究者に賞状および副賞を授与するものです.第5回にあたる2012年度は,2013年2月26日に開催された基礎研究賞選定委員会の審議結果を受け,同年3月18日の役員会において,2件の研究に基礎研究賞を授与することを決定いたしました.

選定委員会の構成は以下の通りです.

柴山 悦哉(理事長),田中 二郎(編集委員長),
大堀 淳,加藤 和彦,寺岡 文男,中島 震,橋田 浩一



 

湯淺 太一氏


授賞業績: 実時間ガベージコレクションに関する研究
授賞理由:

ガベージコレクション(GC)は,プログラムの実行中に使用済みとなったメモリ領域を自動的に解放するための仕組みであり,Java言語をはじめとする多くのプログラミング言語の処理系で必須の機能である.GCを用いることで,実行時メモリ管理の自動化が可能となる.
授賞対象となる研究は,実時間性の高いGCのための基礎に関するものであり,snapshot at the beginning (SATB)と呼ばれるようになった方式を提案したものである.この分野において,SATB方式は,DijkstraやSteeleが提案したincremental update方式と双璧をなしている.SATB方式の基本的アイデア自体は比較的単純であり,GC開始時点のメモリのスナップショットに対して,GCの処理を行なう.そのために,GCの処理中には,通常処理によりポインタが更新されるタイミングで,スナップショットを保持するために必要な情報を退避する.
SATB方式を提案した論文の被引用件数は,Google Scholarによれば150を超えており,国際的にも高く評価されるとともに,その後の実時間GCの研究に大きな影響を与えた.上述のポインタ更新を捉える仕組みのことを,Yuasa barrierと呼ぶことからも,湯淺氏の功績の大きさを窺い知ることができる.さらに,今日のJava言語の標準的処理系に組込まれているGarbage First Garbage Collector(G1 GC)でもSATBに基づく処理が行なわれており,その他にも実用的なプログラミング言語処理系で実際に利用されている.
よって,日本ソフトウェア科学会は湯淺太一氏に基礎研究賞を授与することとした.

出典:

Yuasa, T.: Real-Time Garbage Collection on General-Purpose Machines, Journal of Systems and Software, Vol.11, No.3 (1990), pp.181-198.

 

暦本 純一 氏(東京大学大学院情報学環 / ソニーコンピュータサイエンス研究所)


授賞業績: 実世界指向ユーザインタフェースに関する研究
授賞理由:

暦本氏は1990年代より,拡張現実感(AR),テーブルトップインタフェース,マルチタッチインタフェースなどを含むさまざまな分野で,実世界指向のインタラクション技術に関する新規性の高い研究を行なって来た.
1990年代半ばには,携帯型のカメラや液晶ディスプレイと空間に配置されたバーコードによるID認識などを組み合わせることで,世界に先駆けてモバイルARの基礎となる研究を行った.また,ほぼ同時期に同じく世界に先駆けてAR用マーカーの提案も行なっている.1990年代後半には,複数ユーザで共有するテーブルトップや大型ディスプレイと主に個人が占有するデスクトップをシームレスに統合した環境で,情報の共有や交換を行なうためのインタラクション技術の基礎に関する研究を行なった.また,2000年頃には,マルチタッチインタフェースに関する基礎的研究も行なっている.
Google Scholarによると,暦本氏の論文の被引用件数は,もっとも多いもので約700,総計では8,000を超えており,この分野の研究に多大な影響を与えている.また,今日のタブレット端末やスマートフォンで利用されているインタラクション方式の中には,暦本氏の研究に端を発するものが少なくない.
よって,日本ソフトウェア科学会は暦本純一氏に基礎研究賞を授与することとした.

出典:
Rekimoto, J., Nagao, K.: The World through the Computer: Computer Augmented Interaction with Real World Environments, Proceedings of the 8th Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology, pp.29-36, 1995.
Rekimoto, J., Saitoh, M.: Augmented Surfaces: A Spatially Continuous Work Space for Hybrid Computing Environments, Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems, pp.378-385, 1999.
Rekimoto, J.: SmartSkin: An Infrastructure for Freehand Manipulation on Interactive Surfaces, Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems, pp.113-120, 2002.