表彰等

2008年度基礎研究賞

日本ソフトウェア科学会は, ソフトウェア科学分野の基礎研究において 顕著な業績を挙げられた研究者に対して, 基礎研究賞を授与して, その功績を称える制度を2008年度に設けました. 基礎研究賞は毎年2件程度の業績に対して, 主要な貢献のあった研究者に対して 賞状および副賞を授与するものです.

初回にあたる2008年度は, 2009年2月24日に開催された基礎研究賞選定委員会の 審議結果を受け, 3月26日の理事会において, 2件の研究に対して基礎研究賞を授与することとしました.

2008年度の基礎研究賞選定委員会の構成は 以下の通りです.

湯淺 太一(理事長),本位田 真一(編集委員長),
栗原 聡,権藤 克彦,菅原 俊治,廣津 登志夫,増原 英彦.

 

二村 良彦 氏


授賞業績 Futamura projections
授賞理由

部分評価(partial evaluation)は,プログラムを一部の入力値に関してのみ評 価し,より効率的なプログラムを生成するプログラム変換であり,様々な場面で 用いられている.1970年代に二村氏によって発表された ``Futamura projections''は,「インタプリタをプログラムに関して部分評価するとコンパイ ルコードが得られる」,「部分評価器をインタプリタに関して部分評価するとコ ンパイラが得られる」,「部分評価器を部分評価器に関して部分評価するとコン パイラ・コンパイラが得られる」という,三つの美しい関係である.

この研究 は発表後40年近くたった今でもプログラミング言語の意味論と言語処理系を 結びつける先駆的な研究として国際的に高く評価されており,主論文の被引用 数は300を超えている.よって,日本ソフトウェア科学会は,二村良彦氏に 基礎研究賞を授与することとした.

出典

Futamura, Y.: Partial Evaluation of Computation Process - an Approach to a Compiler-Compiler, Systems, Computers, Controls, Vol. 2, No. 5 (1971) pp. 45--50.
(上記の復刻版は, Higher-Order and Symbolic Computation}, Vol. 12 (1999) pp. 381--391 に掲載.
日本語の原典は, 「計算過程の部分評価-コンパイラ・コンパイラの一方法-」, 電子通信学会論文誌 Vol.~54-C, No. 81 (1971) pp. 721--728.
これの復刻版は、 コンピュータソフトウェア Vol. 21, No. 5 (2004) pp. 11--19 に掲載.)


 

神谷 年洋 氏(産業技術総合研究所)


授賞業績: コードクローン検出器 CCFinder
授賞理由

コードクローン検出器 CCFinder は,コードクローン(重複コード)を検出する ツールである.コードクローンの存在は,多くの場合,ソースコードの不適切なコピー&ペースト, つまり,プログラムのモジュール化の不適切さを示唆するため, コードクローンの発見はソフトウェア工学上,非常に重要である. CCFinder は非常に高速かつ高精度にコードクローンを検出 できる点が大きな特徴であり,100万行規模のソースコードを 数分から数時間で処理できるため,実用性が非常に高い. また,CCFinder には,リファクタリング,部品抽出,品質評価, 剽窃検出など,非常に幅広い応用分野があり,ソフトウェア工学の 基礎として大きな貢献がある.

主論文の被引用数は 50を超えており,国際的な評価も非常に高い. また,現在でも活発に研究は継続され,後継ツールである CCFinderXなどが開発されている. よって,日本ソフトウェア科学会は,神谷年洋氏に基礎研究賞を授与することとした.

出典

Kamiya, T., Kusumoto, S. and Inoue, K.: CCFinder: A Multilinguistic Token-Based Code Clone Detection System for Large Scale Source Code, IEEE Transactions on Software Engineering, Vol.28, No.7 (2002) pp. 654--670.