表彰等

2022年度フェロー

日本ソフトウェア科学会は,ソフトウェア科学の分野における発展に対して特に貢献が顕著と認められる会員に対しフェローの称号を授与して,その功績を称える制度を2004年度に設けました.

フェロー称号の授与は2年ごとに行いますが,第10回の選定にあたる今年度は,7月15日に開催されたフェロー選定委員会の審議結果を受け,8月4日の役員審議において2名の会員にフェローの称号を授与することとしました.

なお,今回のフェロー選考委員会の構成は以下の通りです.
高田 広章 (委員長),大沢 英一,大堀 淳, 加藤 和彦,河野 健二,柴山 悦哉,
玉井 哲雄,萩谷 昌己,本位田 真一, 増原 英彦



フェロー受賞者
五十嵐 健夫 氏
石川 裕 氏
 

略歴・授賞理由

五十嵐 健夫 氏


略歴

2000年、東京大学大学院においてユーザインタフェースに関する研究により 博士号(工学)取得。2002年3月に東京大学大学院情報理工学研究科講師就任、 2005年8月より同助教授、2011年5月より教授。ACM SIGGRAPH Significant New Researcher Award, ACM UIST Lasting Impact Award, ACM CHI Academy 等受賞。 ACM UIST 2013 program co-chair, ACM UIST 2016 conference co-chair, ACM SIGGRAPH ASIA 2018 Technical Papers Chair, ACM CHI 2021 Technical program co-chair。 ユーザインタフェース、特に、インタラクティブコンピュータグラフィクスに関する研究に取り組んでいる。

授賞理由

五十嵐氏は、これまで専門家が時間をかけて制作していた3次元コンピュータグラフィックス(CG)を、初心者でも簡単に制作できるようにするデザインインタフェースの先駆的研究を行い、スケッチインタフェースという新しい分野を切り開いた。特に、手書きスケッチによって簡単に3次元形状を作成する手法は特に有名である(ACM SIGGRAPH ’99,1999)。また、画面の絵を両手で掴むという発想から2次元アニメーションを生成する手法、3次元キャラクターと2次元的な服を対応づけることで、簡単にキャラクターの着せ替えを実現する手法など、一般ユーザーの立場から、3次元CGやアニメーションの制作を容易にするユーザインタフェースの新しい姿を提案している。CGに留まらず、日常用品のデザイン分野のためのユーザインタフェース、家庭用ロボットのためのユーザインタフェースを経て、現在は機械学習のためのユーザインタフェースに関する研究などへと幅広く展開している。 これらの一連の取り組みは各分野で高く評価されている。インタラクティブコンピュータグラフィックスに関する先駆的研究を行った五十嵐氏はこの分野の第一人者の一人として世界的に認められている。コンピューターグラフィックス分野においては、もっとも権威ある国際学会であるACM SIGGRAPHより最優秀若手科学者賞(2006)を受賞している他、ヒューマンコンピュータインタラクション分野において最も権威ある学会であるACM SIGCHIよりCHI Academy(2019)として選出されている。その他、広くコンピューターサイエンス分野全体に対して影響のある研究成果であるとして、日本IBM科学賞(2004)、文部科学大臣表彰 若手科学者賞(2005) 、Katayanagi Prize in Computer Science(2006)、日本学術振興会賞(2010)、船井学術賞 船井哲良特別賞(2010)、日本ソフトウェア科学会基礎研究賞(2019)などを受賞している。 以上のように、コンピュータグラフィックス、ユーザインタフェースの分野における五十嵐氏の功績は顕著であり、本学会はこれを称え、フェローの称号を授与する。


石川 裕 氏


略歴

1987年慶應義塾大学大学院工学研究科電気工学専攻博士課程修了.工学博士.同年電子技 術総合研究所(現産業技術総合研究所)入所.1993年技術研究組合新情報処理開発機構出 向.2002年より東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻.2010年~2013 年,同大情報基盤センターセンター長兼務.2014年より理化学研究所計算科学研究機構フ ラッグシップ2020プロジェクト(スーパーコンピュータ「富岳」)リーダー, システムソ フトウェア研究チームリーダー兼任, 2021年より情報・システム研究機構 国立情報学研究 所(NII)アーキテクチャ科学研究系 教授. 東京大学名誉教授. 1996年情報処理学会山下記 念研究賞,1999年~2003年情報処理学会OS研究会主査, 2001年~2019年 PCクラスタ コンソーシアム会長,2002年~2006年日本ソフトウェア科学会 理事,2014年情報処理学 会フェロー, 2021年11月兵庫県科学賞, 2021年12月慶応義塾大学理工学部矢上賞.

授賞理由

石川氏は,ハイパフォーマンスコンピュータ向け基盤ソフトウェア,並行オブジェクト 指向言語,リアルタイムシステム等の様々なソフトウェア分野における研究において極め て顕著な業績を挙げ,著名な国際会議や論文誌に多数の論文が採録され,高い評価を受け ている.日本の産官学協調による科学技術研究の発展にも大きく寄与し, ソフトウェア科学 の発展に対して多大の貢献をおこなっている.
 石川氏がリアルワールドコンピューティングプロジェクト(1992-2002年)において開発 を主導したSCoreは, 使い勝手のよいハイパフォーマンス・クラスタシステム向け基盤ソ フトウェアの実現を目標に研究開発された.SCoreは多くの計算センター・企業における PCクラスタシステムの基盤ソフトウェアとして利用された. この成果をもとに認知度が低 かったPCクラスタ普及を目的としてPCクラスタコンソーシアムを立ち上げた.PCクラ スタコンソーシアムは産官学の協調コミュニティ形成に大きく貢献するとともに, 日本に おけるハイパフォーマンスPCクラスタシステムの普及に大きな役割を果たした.
 東京大学情報基盤センター長時代石川氏は, スーパーコンピュータセンターを有する9 大学, 理化学研究所, 国立情報学研究所と共に文部科学省が推進するHigh Performance Computing Infrastructure(革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ (HPCI)のシステムおよび運営の枠組みを整備した. HPCIにより, 全国の幅広いHPCユ ーザー層が全国のスーパーコンピュータや大規模ストレージを効率よく利用できる科学技 術計算環境が実現された.
 また, 2010年から始まった次世代高性能計算システムを考える戦略的高性能計算システ ム開発に関するワークショップ(SDHPC)を有志メンバーで主催, 「富岳」開発のコンセプ トを若手研究者・技術者主体で完成させ, 2014年より理化学研究所において開発プロジェ クトリーダーとして「富岳」開発を牽引した. また, システムソフトウェア研究チームを率 いMcKernel(OSカーネル)などの基盤ソフトウェア研究開発をリードした. 「富岳」は「京」 コンピュータの100倍の実効性能を達成した他, 2020年6月から4つのスパコンランキン グ(Top500, HPCG, Graph500, HPL-AI)において 4期連続世界一を達成した.
 以上の通り,石川氏はHPC分野の基盤ソフトウェア研究開発とインフラ整備, そして産 官学のコミュニティ形成に長年多大なる貢献をしている.よって本学会はこれを称え、フ ェローの称号を授与する.