表彰等

2020年度フェロー

日本ソフトウェア科学会は,ソフトウェア科学の分野における発展に対して特に貢献が顕著と認められる会員に対しフェローの称号を授与して,その功績を称える制度を2004年度に設けました.

フェロー称号の授与は2年ごとに行いますが,第9回の選定にあたる今年度は,7月27日に開催されたフェロー選定委員会の審議結果を受け,8月6日の役員審議において2名の会員にフェローの称号を授与することとしました.

なお,今回のフェロー選考委員会の構成は以下の通りです.
増原 英彦 (委員長),大沢 英一,大堀 淳, 風間 一洋,加藤 和彦,河野 健二,
柴山 悦哉,玉井 哲雄,萩谷 昌己, 本位田 真一



フェロー受賞者
松岡 聡 氏
小林 直樹 氏
 

略歴・授賞理由

松岡 聡 氏



略歴

東京大学理学系研究科情報科学専攻、博士(理学、1993 年)。2001 年より東京工業大学・学術国際情報センター教授。2017 年産総研・東工大 RWBC-OIL ラボ⻑。2018 年より現職。東京工業大学・情報理工学院特任教授(兼職)。

専門は高性能並列システム(GPU・省電力・高信頼/大規模データ処理、高性能AI 等)。ACM HiPC を含む、主要国際学会のプログラム委員⻑職等を歴任。

授賞理由

松岡氏は、高性能計算ソフトウェアの研究やスーパーコンピュータ(スパコン)の開発において長年にわたる顕著な業績をあげてきた。特に、並列オブジェクト指向言語、高性能JITコンパイラ、異種混合プロセッサの活用技術、省電力高性能ソフトウェア、高性能ビッグデータ基盤技術などの多数の分野において主宰プロジェクトを立ち上げてきた。また東京工業大学TSUBAMEスパコンシリーズの開発責任者を長年務め、スパコン開発と左記プロジェクト等の研究を両輪として、多数の研究業績をあげてきた。これらの成果は国内外から高く評価され、ACMフェロー(2011年)、文部科学大臣表彰科学技術賞(2012年)、IEEE Computer Societyシドニー・ファーンバック賞(2014年)をはじめ、多数の受賞歴を持つ。さらには左記のような研究成果が、同氏がセンター長を務める理化学研究所計算科学研究センターのスパコン「富岳」の独自アーキテクチャに結びつき、スパコンランキング四冠(2020年6月にTop500, HPCG, Graph500,HPL-AIにおいて世界一)という顕著な結果をあげた。
以上のように、高性能計算ソフトウェアおよびスパコン開発分野における松岡氏の功績は顕著であり、本学会はこれを称え、フェローの称号を授与する。


小林 直樹 氏


略歴

1991年東京大学理学部情報科学科卒業.1993年東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修士課程修了.1996年東京大学博士(理学)取得.1993年東京大学大学院理学系研究科助手,1996年同講師,2001年東京工業大学大学院情報理工学研究科助教授,2004年東北大学大学院情報科学研究科教授,2012年東京大学大学院情報理工学系研究科教授.IFIP TC2 Manfred Paul Award,坂井記念特別賞,日本アイ・ビー・エム科学賞,文部科学大臣表彰若手科学者賞,日本学術振興会賞,日本ソフトウェア科学会基礎研究賞などを受賞.情報処理学会フェロー.IFIP TC2 WG2.2 メンバー.
 

授賞理由

小林氏は,プログラミング言語の基礎理論,とりわけプログラム解析・検証のための型システムおよび高階モデル検査において顕著な業績をあげてきた.1990年代後半から2000年代にかけては,並行プログラムのための型システム,特に,デッドロックやライブロックを起こさないことを保証するための型システムなどの研究を行い,並行プログラムの基礎理論研究に大きな影響を与えている.2000年代末からは,関数型プログラムのためのモデル検査である高階モデル検査の研究に取り組み,それまでは理論的な興味対象でしかなかったhigher-order recursion scheme と呼ばれる高階木文法のためのモデル検査問題(HORSモデル検査)が関数型プログラムの検証に応用できることを示した.さらに,高階モデル検査のための新しいアルゴリズムとそれに基づく高階モデル検査器を世界で初めて開発し,HORSモデル検査問題は時間計算量が最悪k重指数時間であるにもかかわらず,多くのプログラム検証問題については現実的な時間で解けることを示すなど,ブレークスルーとなる業績をあげ,プログラム検証の研究を国際的にリードしてきた.さらに,最近では,HFLと呼ばれる高階不動点論理を使った高階モデル検査の研究を推進している.
小林氏の研究活動は国際的にも広く認知され,理論計算機科学分野のトップカンファレンスであるLICSをはじめとして,ICALP Track B, APLAS, FSCD のプログラム委員長や,ACM POPL, LICS, ESOP, CONCUR, SAS などを含む理論計算機科学,プログラミング言語,プログラム検証分野の多数の国際会議プログラム委員,論文誌 Logical Methods in Computer Science の編集委員を務めている.本学会の活動においても,企画委員,PPLワークショッププログラム共同委員長,プログラミング論研究会運営委員および主査,第22回大会運営委員長を務めるなど本学会の発展にも尽力している.
以上のように,小林氏は,プログラミング言語の基礎理論分野において顕著な功績をあげてきた.よって本学会はこれを称え,フェローの称号を授与する.