表彰等

2006年度フェロー

平成18年度功労賞授賞およびフェロー称号の授与

(コンピュータソフトウェア Vol. 23, No. 4 Oct. 2006, 96-98)
日本ソフトウェア科学会は設立20周年記念事業の一環として,これまでの学会 活動に対して特に貢献が顕著と認められる会員に対し功労賞を,ソフトウェア 科学の分野における発展に対して特に貢献が顕著と認められる会員に対しフェ ローの称号を授与して,その功績を称える制度を2004年度に設けました. 功労賞,フェロー称号の授与は2年ごとに行いますが,第2回の選定にあたる今 年度は,8月7日に開催された功労賞,フェロー両選定委員会の審議結果をうけ, 同月の理事会において2名の会員に功労賞を授賞,2名の会員にフェローの称号 を授与することとしました.

フェロー受賞者
伊藤貴康 氏
玉井哲雄 氏
 

略歴・授賞理由

伊藤 貴康氏

略歴
1940年生.1962年京都大学工学部電気工学科卒.1967年スタンフォード大学コ ンピュータサイエンス学科大学院修士課程修了.工学博士(京都大学).スタン フォード大学人工知能研究所,三菱電機中研を経て1978年に東北大学.2003年 から東北大学名誉教授,石巻専修大学教授(2006年3月まで).現在, Information and ComputationのEditorial Member,Higher-Order and Symbolic Computation のAssociate Editor,IFIP TC1 Member.研究分野,ソ フトウェア基礎科学および人工知能.電子情報通信学会フェロー,情報処理学 会フェロー.
授賞理由
伊藤貴康氏は京都大学工学部に在学中から一貫して計算機の理論と応用の研 究に従事した.スタンフォード大学時代には,プログラムの数理的側面やパタ ン認識に関するパイオニア的研究を進め,その成果は国外においても高く評価 されている.三菱電機在籍中は,パタン認識とプログラム理論の研究を発展さ せるとともに,当時としては画期的な高性能ミニコンを開発するなど,理論面 以外にも優れた業績を残した.海外での数多くの招待講演に加え,プログラム の基礎理論と応用に関する国際会議を定期的に主催するなど,国内外の研究者 の研究交流に大いに貢献した.さらに計算機ソフトウェアの実践的な研究も進 め,人工知能や記号処理に適したプログラミング言語であるLispのISO国際標 準規格の原案を作成し,ISO委員会に採用された.日本の計算機ソフトウェア 分野としては画期的な成果である.東北大学退官後も,IFIP(情報処理国際連 合)のTC1(計算機科学の基礎に関する技術委員会)の議長を務めるなど,計 算機分野の研究・啓蒙活動を続けている. このように計算機のソフトウェア・ハードウェアの基礎理論から応用までの 幅広い研究・開発において先駆的な業績をあげており,特に日本のソフトウェ ア基礎分野の地位向上への貢献は特筆に価するものである.よって,日本ソフ トウェア科学会は,伊藤貴康氏の功績を称え,フェローの称号を授与する.


玉井 哲雄氏

略歴
1948年生.1970年東京大学工学部計数工学科卒.1972年同大学院工学系研究科 計数工学専攻修士課程修了.同年(株)三菱総合研究所入社.1985 年同社人工 知能開発室室長.1989年筑波大学大学院経営システム科学専攻助教授.1994年 東京大学教養学部教授,1996年東京大学大学院総合文化研究科教授,2000年同 大学院情報学環教授,2003年より同大学院総合文化研究科教授.工学博士.ソ フトウェアの仕様・検証技術,モデル化技術,進化プロセスの分析,協調計算 モデルの開発等の研究及びそれらの技術の実際的な問題への適用に従事. 情報処理学会,電子情報通信学会,日本オペレーショズリサーチ学会, 人工知能学会,ACM, IEEE 各会員.
授賞理由
わが国の大学には情報科学/工学の研究者は数多くいるが,その中でソフト ウェア工学を専門とする人は案外少ない.とくにソフトウェア工学分野で国際 的に活躍している人は極めて僅かである.玉井哲雄氏はその数少ない国際級の 研究者の一人で,わが国の第一人者と言ってもよい.国内では,情報処理学会 ソフトウェア工学研究会主査,日本ソフトウェア科学会編集委員長,ソフトウェ ア技術者協会代表幹事などを歴任し,2004年に出版された「ソフトウェア工学 の基礎」(岩波書店)は,同年に大川出版賞も受賞しているが,この分野で白 眉の秀書でわが国のソフトウェア工学への貢献は絶大である.国際的には,ソ フトウェア工学の旗艦国際会議であるICSEを中心に,多くの論文発表を行うと ともに,トラック委員長やプログラム委員を幾度も務め,20年以上にわたって 活躍している.また,自ら実行委員長やプログラム委員長を務めた国際会議も APSEC99, ISPSE00, IWPSE01, WNASC04, WNASC05など数多く,ソフトウェア工 学の国際的分野における,その学術的業績と分野への貢献は極めて高く評価さ れている.玉井氏は,80年代初期のいわゆる第3次オンラインシステムの基本 計画策定の際に,米国のコンサルティング会社とわが国の代表的銀行の間に立っ て大きな計画の立案にあたっている.ソフトウェア工学の分野では,このよう に理論面と実践面のバランスのとれた経験と知識は貴重であることを,氏の経 歴と業績が物語っている.よって,日本ソフトウェア科学会は,玉井哲雄氏の 功績を称え,フェローの称号を授与する.