表彰等

2013年度基礎研究賞

2013年度基礎研究賞の授与について

加藤 和彦

日本ソフトウェア科学会は,ソフトウェア科学分野の基礎研究において顕著な業績を挙げられた研究者に対して基礎研究賞を授与し,その功績を称える制度を2008年度に設けました.基礎研究賞は毎年2件程度の業績を選定し,主要な貢献のあった研究者に賞状および副賞を授与するものです.第6回にあたる2013年度は,2014年2月19日に開催された基礎研究賞選定委員会の審議結果を受け,同年3月18日の役員会において,2件の研究に基礎研究賞を授与することを決定いたしました.

選定委員会の構成は以下の通りです.

加藤 和彦(理事長),田中 二郎(編集委員長),
上田 和紀,権藤 克彦,寺岡 文男,中島 震,横尾 真
 

伊藤 孝行 氏(名古屋工業大学)

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授賞業績: マルチエージェントシステムにおける交渉・協調機構に関する研究
授賞理由
伊藤孝行氏は,マルチエージェントシステムの自動交渉機構に関する理論とその応用に関する研究に関して多大な成果を残している.伊藤孝行氏の自動交渉機構の研究は協力的アプローチと競争的アプローチに大別される.協力的アプローチでは,既存の経済学やコンピュータ科学で扱われなかった複雑な効用空間に基づいた協力的な自動交渉の理論を提案している[1].ここでは,合意形成そのものに焦点をあて,合意形成における主観的評価の計算機上での取扱いをアルゴリズム化することに成功している.特に米国MITとの共同研究として行われた,主観的な多次元効用空間のモデル化と,その自動交渉アルゴリズムは,米国や欧州でインパクトのある研究として広がりを見せている[1].
競争的アプローチでは,オークションやマッチングに基づく交渉手法に注目し,分散システムに数理経済学やゲーム理論を応用した観点から,理論的に望ましい性質を持つ交渉機構を新たに提案している.本分野は計算論的メカニズムデザインと呼ばれ,米国ハーバード大学との共同研究として行われた,価値の依存性を反映したオークションプロトコルの設計は,この分野の最難関国際会議AAMAS2006で最優秀論文賞(553本中の1本)を受賞した[3].ここでは,既存の経済学でも実現されていなかった,価値の依存性を反映したオークションの仕組みを実際にソフトウェアとして実現するための計算アルゴリズムを提案し,その実現手法を示し,国際的に高く評価されている.また候補者は,本アプローチを用いることで環境に頑健な社会システムを構築できることを示した.
よって,日本ソフトウェア科学会は伊藤孝行氏に基礎研究賞を授与することとした.

出典
[1] T. Baarslag, K. Fujita, E. Gerding, K. Hindriks, T. Ito, N. R. Jennings, C. Jonker, S. Kraus, R. Lin, V. Robu, C. Williams: Evaluating Practical Negotiating Agents: Results and Analysis of the 2011 International Competition, Artificial Intelligence Journal, Elsevier Science, Vol.198, May 2013, pp. 73-103, 2013.
[2] T. Ito, M. Klein, H. Hattori: Multi-issue Negotiation Protocol for Agents: Exploring Nonlinear Utility Spaces, Proc. of Int. Joint Conf. on Artificial Intelligence, January 6-12, pp.1347-1352, 2007.
[3] T. Ito, D. Parkes: Instantiating the Contingent Bids Model of Truthful Interdependent Value Auctions,  Proc. of Fifth Int. Joint Conf. Autonomous Agents and Multi-Agent Systems, pp.1151-1158, 2006. (最優秀論文賞)

 

二木 厚吉 氏(北陸先端科学技術大学院大学)

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授賞業績: 代数仕様言語に関する研究
授賞理由
1970年代後半から1980年代前半にかけてパラメタ付モジュール等の強力なモジュールシステムを備える代数仕様言語の設計・開発が始められた.二木氏が設計・開発したHISPはそのような言語のひとつである.HISPの設計・開発に引き続き,Joseph Gogune,Jean-Pierre Jouannaud,Jose Meseguer等と共に代数仕様言語OBJ2の設計・開発に携わった.OBJ2の実装,特にパラメタ付モジュールシステムの実装には同氏のHISPの開発経験が活かされ,同氏主導で行われた.OBJ2を含むOBJ言語のモジュールシステムは,代数仕様言語のみならず,Standard ML等のプログラミング言語にも影響を及ぼした.
同氏は,OBJ2の設計・開発に携わった後,代数仕様言語CafeOBJの設計・開発を開始した.OBJ2等の従来の代数仕様言語とCafeOBJの決定的な違いは,従来の代数仕様言語ではスタック等の静的なデータのみしか記述できなかったのに対し,CafeOBJでは静的なデータに加え分散システムや通信プロトコル等の動的なシステムの動き(振舞い)も記述できるという点にあった.このため,CafeOBJは国際的に非常に高く評価され,1999年に開催された世界中の形式手法の研究者がはじめて一堂に会した形式手法に関する国際会議World Congress on Formal Method (FM'99)においてOBJ/CafeOBJ/Maudeというセッションが設けられた.
同氏は現在もCafeOBJの改良や証明スコア法に基づく新規の定理証明法の開拓を含むCafeOBJに関する研究を精力的に行っている.このように30年以上にわたり一貫して代数仕様言語に関する質の高い研究を行ってきた.また、Google Scholar によると,同氏の論文の被引用件数は,もっとも多いもので約680,編著の被引用件数も含めると総計では約3,900あり,この分野の研究に多大な影響を与えている.
よって,日本ソフトウェア科学会は二木厚吉氏に基礎研究賞を授与することとした.

出典
[1] K. Futatsugi, K. Okada: A Hierarchical Structuring Method for
Functional Software Systems, Proc. of 6th Int. Conf. on Software Engineering, pp.393-402, 1982.
[2] K. Futatsugi, J. A. Goguen, J. P. Jouannaud, J. Meseguer: Principles of OBJ2, Proc. of 12th ACM Symp. on Principles of Programming Languages, pp.52-66, 1985.
[3] K. Futatsugi, D. Gaina, K. Ogata: Principles of Proof Scores in CafeOBJ, Theoretical Computer Science, Vol.464, pp.90-112,2012.