表彰等

2016年度フェロー

日本ソフトウェア科学会は,これまでの学会活動に対して特に貢献が顕著と認められる会員に対し功労賞を,ソフトウェア科学の分野における発展に対して特に貢献が顕著と認められる会員に対しフェローの称号を授与して,その功績を称える制度を2004年度に設けました.

功労賞,フェロー称号の授与は2年ごとに行いますが,第7回の選定にあたる今年度は,8月3日に開催された功労賞・フェロー選定委員会の審議結果を受け,8月19日の役員審議において2名の会員に功労賞を,2名の会員にフェローの称号を授与することとしました.

なお,今回の功労賞・フェロー選考委員会の構成は以下の通りです.
丸山 宏(委員長),明石 修,大沢 英一,大堀 淳,柴山悦哉,
玉井 哲雄,千葉滋, 萩谷 昌己,本位田 真一, 八杉昌宏



フェロー受賞者
上田 和紀 氏
中島 秀之 氏
 

略歴・授賞理由

上田 和紀 氏

略歴

1978年東京大学工学部計数工学科卒業.1986年同大学院情報工学博士課程修了,工学博士.1983年NEC入社,1985~1992年(財)新世代コンピュータ技術開発機構出向.1993年より早稲田大学理工学部情報学科.現在同大学理工学術院情報理工学科教授,国立情報学研究所客員教授.プログラミング言語,高性能検証などの研究およびシステム開発に従事.第7回日本IBM科学賞,2011年度日本ソフトウェア科学会基礎研究賞など受賞.

授賞理由

上田氏は,一貫してプログラミング論とプログラミング言語,特に並行論理型言語の設計と実装,さらに並行計算の言語モデル等の分野で研究を重ね,顕著な業績をあげてきた.1980年代には,第五世代コンピュータプロジェクトにおいて,論理型言語に並行性を導入した新しい言語 Guarded Horn Clauses を設計・提案した.その単純にして明解な意味論はその後の言語,計算モデルの研究に大きな影響を与え,国内外を問わず高く評価されている.その後上田氏は,階層的グラフ書き換えに基づく,並行計算の統一的な言語モデルであるLMNtalの設計と処理系の開発,またその応用として LMNtal を利用したモデル検査の研究等に取り組み,数々の論文を発表している.最近では,ハイブリッドシステムの仕様を制約によって記述する宣言型言語 HydLa の設計とその処理系の研究など,新たな方向への研究を展開している.このように,常に理論面と実践面を両立させた上田氏の活発な研究活動は,国際的にも広く認知され,数多くの著名な国際会議でプログラム委員を務めている.上田氏は,本学会の活動においても,理事,機関誌編集委員長,プログラミング論研究会運営委員を務めるなど,本学会の発展にも尽力している.以上のように,プログラミング分野における上田氏の功績は顕著である.よって本学会はこれを称え,フェローの称号を授与する.

中島 秀之 氏

略歴

1983年東大情報工学専門課程修了(工学博士).同年電子技術総合研究所に入所.2001年に産業技術総合研究所に改組されると共にサイバーアシスト研究センター長を努める.2004年より公立はこだて未来大学学長.2016年より東京大学大学院情報理工学研究科知能機械情報学専攻先端人工知能学教育寄付講座特任教授,および,公立はこだて未来大学特任教授.公立はこだて未来大学名誉学長,および,同大名誉教授,認知科学会フェロー,会長,人工知能学会フェロー,理事,情報処理学会フェロー,編集委員長,副会長.マルチエージェントシステム国際財団理事,日本工学アカデミー会員,電子情報通信学会会員,日本学術会議連携会員,JSTさきがけ領域研究総括,本学会においては企画委員,MACC主査,13回大会プログラム委員長,編集委員,WEIN主査,2000年から2002年においては理事を歴任した.

授賞理由

中島氏は,長年にわたりソフトウェア,特にプログラミング言語と人工知能の先駆的分野の融合に関する研究に多大な貢献を行ってきており,知識表現や知能の状況依存性などに関する業績が顕著である.研究の初期においては論理型プログラミング言語Prologに多重世界機構を導入した知識表現システムProlog/KRを開発した.さらに,スタンフォード大学と共同で状況推論のためのPrositなどを開発した.
その後,研究の視点を単一の知能や知的主体から多数の知的主体の相互作用,つまりマルチエージェントシステムへと移し,産業技術総合研究所においても協調アーキテクチャ,さらにサイバーアシストの研究のリーダーシップを執るようになる.ここでは,新しい状況に対応できるシステムの構築手法として構造の動的変化や部分と全体との相互作用という特性を有した有機的プログラミングの概念を提唱し,有機的プログラミング言語Gaeaを開発した.さらにこの考え方を発展させ,現在では複雑系と知能の関係性を解明するとともに全体論的(holistic)システムの構築に向けた構成的方法論に関する研究を推進している.
この間,本学会においてはマルチエージェントと協調計算研究会(MACC),および,ネットワークが創発する知能研究会(EIN)の設立に中心的な役割を果たし,人工知能研究の先端分野に関する日本における研究コミュニティの発足と発展に大きく寄与した.さらに,自律エージェントとマルチエージェントに関する国際会議(AAMAS2006)をはじめとした人工知能分野における国際会議議長などを務め,人工知能研究の国際コミュニティに多大な貢献するとともに,JSTさきがけ「知の創成と情報社会」の領域総括を担当することで萌芽的で先端的な研究の発掘と発展に尽力された.