表彰等

2014年度フェロー

日本ソフトウェア科学会は,これまでの学会活動に対して特に貢献が顕著と認められる会員に対し功労賞を,ソフトウェア科学の分野における発展に対して特に貢献が顕著と認められる会員に対しフェローの称号を授与して,その功績を称える制度を2004年度に設けました.

功労賞,フェロー称号の授与は2年ごとに行いますが,第6回の選定にあたる今年度は,7月10日に開催された功労賞・フェロー選定委員会の審議結果を受け,7月25日の役員会において2名の会員に功労賞を,3名の会員にフェローの称号を授与することとしました.

なお,今回の功労賞・フェロー選考委員会の構成は以下の通りです.
加藤 和彦(委員長),明石 修,上田 和紀,大沢 英一,大堀 淳,
田中 二郎,玉井 哲雄,萩谷 昌己,廣津 登志夫,本位田 真一



フェロー受賞者
井上 克郎 氏
外山 芳人 氏
横尾 真 氏
 

略歴・授賞理由

井上 克郎 氏

略歴

1956年生.1979年大阪大学基礎工学部情報工学科卒業.1984年同大大学院博士課程了.同年同大学基礎工学部助手.1984年~1986年ハワイ大マノア校情報工学科助教授.1989年大阪大学基礎工学部講師.1991年同助教授.1995年同教授.2002年大阪大学大学院情報科学研究科教授.2012年大阪大学大学院情報科学研究科・研究科長.工学博士.ソフトウェア工学,特に,ソフトウェア開発手法,プログラム解析,再利用技術の研究に従事.現在,文部科学省情報技術人材育成のための実践教育ネットワーク形成事業 enPiT代表,電子情報通信学会フェロー,情報処理学会フェローなどを務める.1999年?2003年ソフトウェア科学会理事.研究業績に関して,第35回市村学術賞貢献賞,情報処理学会論文賞(2007年,2013年)等を受賞.

授賞理由

井上氏は,ソフトウェア工学,特に,ソフトウェア開発手法,プログラム解析,再利用等について一貫して研究・教育を行ってきた.特に,コードクローン(プログラム中に存在する同形部分で,開発・保守に悪影響を与えるもの)解析技術とソフトウェア再利用支援において理論面,実用面共に優れた成果を達成してきている.前者の成果の一つであるコードクローン検出ツールは国内外含め300箇所以上の大学,研究機関,企業等に配布/試用され,コードクローン検出技術の普及,発展に大きく寄与してきている.後者の成果としては,プログラミング言語 Javaを対象とした部品収集・分析・検索システム構築がある.
システムの中核をなす部品順位付手法(検索されたソフトウェア部品を重要度に応じてランク付けを行う手法)は,著名な国際会議・ジャーナルに採択されており,高い評価を受けている.また,ある企業の社内システム保守の現場でも活用されている.教育面でも,文部科学省情報技術人材育成のための実践教育ネットワーク形成事業として,我が国の15大学が連携して実施している「分野・地域を越えた実践的情報教育協働ネットワーク(enPiT)」の代表をつとめており,実践人材の育成にも尽力している.
以上のように,ソフトウェア工学分野における研究・教育面での井上氏の功績は顕著である.よって本学会はこれを称え,フェローの称号を授与する.

外山 芳人 氏

略歴

1952年生.1975年 新潟大学工学部電子工学科卒業.1977年 東北大学大学院工学研究科情報工学専攻修士課程修了.同年 日本電信電話公社 (現 NTT) 武蔵野電気通信研究所 入所.1991年 NTT コミュニケーション科学研究所 主幹研究員.1993年 北陸先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 教授.2000年より東北大学 電気通信研究所 教授,現在に至る.専門分野は,項書き換えシステム,定理自動証明,プログラム理論など.工学博士(東北大学).ソフトウェア科学会,情報処理学会,電子情報通信学会,ACM,EATCS各会員.

授賞理由

項書き換え系(Term Rewriting System)は論理的計算構造を抽象化し等式で表現する計算モデルであり,定理自動証明,関数型言語などの計算機科学のさまざまな分野の理論的基礎として広く使われている.外山氏は,黎明期である1980年代から一貫して,項書き換え系の合流性,停止性,等価変換,計算戦略,定理自動証明法への応用などについて研究を重ね,顕著な業績を挙げてきた.1980年代には,共通な記号を持たない二つの系の和が注目する性質を保存するというモジュラ性を世界に先駆けて研究し,合流性がモジュラ性を持つことを明らかにするとともに,停止性はモジュラ性を持たないという驚くべき結果を単純な反例で示した.この反例およびその変形版は現在でも他の性質を議論するために広く使われ,「外山の反例」として引用され続けている.さらに,理論的に扱いづらい非直交系のクラスに対しても,合流性の研究や計算結果が存在する場合には必ずそれを求めることのできる正規化戦略の研究など数多くの優れた成果を挙げている.また,1991年に同氏が中心となって立ち上げたTRSミーティングは現在までに40回を迎え,海外からも研究者が参加する項書き換え系の議論の場であり,国内の研究者の育成に大きく貢献した.
以上のように外山氏は,項書き換え系及び関連分野において世界的に顕著な研究成果をあげ,国内第一人者として該当分野を牽引してきた.よって本学会はこれを称え,フェローの称号を授与する.

横尾 真 氏

略歴

1984年東京大学工学部電子工学科卒業.1986年同大学院修士課程修了.同年NTT に入社.1990年~1991年 ミシガン大学客員研究員.2004年より九州大学大学院 システム情報科学研究院 教授,2012年より同大学院 主幹教授.マルチエージェントシステム,制約充足問題に関する研究に従事.エージェントの合意形成メカニズム, 制約充足/分散制約充足等に興味を持つ.博士 (工学).1992年,2002年 人工知能学会論文賞,1995年 情報処理学会坂井記念特別賞,2004年 Association for Computing Machinery (ACM) Special Interest Group on Artificial Intelligence (SIGART) Autonomous Agent Research Award,2005年日本ソフトウェア科学会論文賞, 2006年学士院学術奨励賞,2010年人工知能学会業績賞,International Foundation for Autonomous Agents and Multiagent Systems influential paper award,2011年ソフトウェア科学会基礎研究賞,情報処理学会論文賞 受賞.AAAI,情報処理学会フェロー,人工知能学会,日本ソフトウェア科学会,電子情報通信学会各会員.

授賞理由

横尾氏は,複数の自律的に動作する知的なエージェントから構成されるシステムであるマルチエージェントシステム分野において先駆的な研究を行うとともに,国際財団理事長を務めるなど同分野の発展に多大な貢献してきた.特に,「分散制約充足問題」と「匿名環境下の制度設計」の研究分野の創始者である.分散制約充足問題は分散処理に関する問題を統一的かつ理論的に扱う枠組みであり,マルチエージェントシステムの主要な基礎理論となっている.匿名環境下の制度設計では,インターネットオークションでの新たな不正行為 (架空名義入札) を世界で初めて指摘するなど,理論と応用の双方に大きな影響を与える研究成果を上げている.さらに,計算機科学と社会科学 (ミクロ経済学/ゲーム理論) の新たな学際領域を確立し,国内外のミクロ経済学者との独創的研究の推進や研究コミュニティの発展にも貢献している.
これらの功績により,国内外の学会からの受賞も数多く,本学会からも2011年度基礎研究賞を受けている.2011年には日本を含むアジア地域の研究者からは初めて,日本人としては2人目となる人工知能に関する国際学会AAAIのフェローに選出された.
このように,独創的な研究成果を創出するだけでなく,新たな文理融合研究領域の確立など,横尾氏の功績は顕著である.よって本学会はこれを称え,フェローの称号を授与する