表彰等

2012年度フェロー

日本ソフトウェア科学会は,これまでの学会活動に対して特に貢献が顕著と認められる会員に対し功労賞を,ソフトウェア科学の分野における発展に対して特に貢献が顕著と認められる会員に対しフェローの称号を授与して,その功績を称える制度を2004年度に設けました.
功労賞,フェロー称号の授与は2年ごとに行いますが,第5回の選定にあたる今年度は,7月9日に開催された功労賞・フェロー選定委員会の審議結果を受け,7月23日の役員会において2名の会員に功労賞を,2名の会員にフェローの称号を授与することとしました.
なお,今回の功労賞・フェロー選考委員会の構成は以下の通りです.

加藤 和彦(委員長), 明石 修, 片山 卓也,
権藤 克彦,柴山 悦哉, 田中 二郎, 土居 範久,
橋田 浩一, 廣津 登志夫, 米澤 明憲



フェロー受賞者
阿草 清滋 氏
徳田 英幸 氏
 

略歴・授賞理由

阿草 清滋 氏

阿草清滋氏の写真
略歴

1947年生.1970年京都大学工学部電気工学第二学科卒業.同年同大学大学院工学研究科電気工学第二専攻進学.1974年より同情報工学科助手.同講師,助教授を経て1989年より名古屋大学教授.名古屋大学評議員,情報科学研究科長,情報基盤センター長等を歴任.2012年名古屋大学を定年退職し,現在,京都大学学術情報メディアセンター客員教授.工学博士.名古屋大学において高信頼webware開発プロジェクト,組込み人材育成プロジェクト,先導的IT人材育成プロジェクト等を主宰.専門分野はソフトウェア工学,ソフトウェア開発方法論,知的開発環境,ソフトウェアデータベース,仕様化技法,再利用技法など.

授賞理由

阿草氏はソフトウェア工学分野における研究開発の推進と教育に多大な貢献を行ってきた.初期には,認知されて間もない要求工学において,仕様記述の厳密さを追求する体系に関する研究を行った.これはその後,上流工程の重要性とソフトウェア分析・設計に対する形式手法の必要性を認識させることにつながっている.同氏のソフトウェア工学研究は,実践性が最重点のひとつであり,プログラム構成要素と要素間関係の精密な解析を可能にした細粒度ソフトウェアリポジトリSapidは,産業界からの利用要請も多かった.次いで,ウェブが情報システムとの連携を始める頃,情報資源とそれに対する品質保証の分散性に対応すべくウェブウェア・エンジニアリングの研究開発を主導し,文部科学省e-Society基盤ソフトウェアプロジェクトの一翼を担った.文部科学省プロジェクトでは教育関連の先導的ITスペシャリスト育成推進プログラムでも中心的な役割を果たし,PBL (Project-Based Learning)の実践性をさらに高めるOJL (On the Job Learning)の推進により,成熟期に入った産業界人材要請にこたえた.

以上のように,コンピュータソフトウェア領域の学術と社会応用に関する阿草氏の功績は顕著である.よって本学会はこれを称え,フェローの称号を授与する.


徳田 英幸 氏

徳田英幸氏の写真
略歴

1977年慶應義塾大学大学院工学研究科修士.1983年ウォータールー大学計算機科学科博士(Ph.D. in Computer Science).同年カーネギーメロン大学計算機科学科Research Associateとして勤務,研究准教授を経て,1990年より,慶應義塾大学環境情報学部助教授と兼務.1994年カーネギーメロン大学Adjunct Associate Professor. 1996年慶應義塾大学環境情報学部教授.慶應義塾常任理事(1997-2001年),同大学院政策・メディア研究科委員長(2001-2007年),同大学環境情報学部長(2007-2009年)を歴任.
専門の研究領域は,オペレーティングシステム,リアルタイムシステム,分散システム,ユビキタスコンピューティングシステムなどに関する分野.現在,ACM UbiComp and Pervasive Computing共同運営委員会委員,日本学術会議連携会員,情報通信審議会委員,情報処理学会フェロー,ネットワークロボットフォーラム会長などを務める.研究教育業績に関してMotorola Foundation Award, IBM Faculty Award, 経済産業大臣賞,総務大臣賞などを受賞.
 

授賞理由

徳田英幸氏は,カーネギーメロン大学においてARTSオペレーティングシステムとReal-Time Machオペレーティングシステムの開発を推進してきた.これらのオペレーティングシステムではスケジューラビリティ解析が可能なスケジューリングアルゴリズムや優先度逆転問題を解決するためのアルゴリズム等の理論的研究の成果の有効性を実用的なオペレーティングシステム内に実装することにより,リアルタイムシステムの研究を大幅に発展することに貢献した.
近年は,ユビキタスコンピューティングの研究,特に,センサーや計算機を環境に埋め込むスマート環境の研究を推進している.特に,SFC Sense Campusプロジェクトのように大規模な実験を通して,ユビキタスコンピューティングの可能性を実証しようとしている.また,世界中で研究が盛んになってきているサイバーフィジカルシステムに関しても,いち早く国内における研究活動を立ち上げ,海外の研究コミュニティとのネットワークを構築するなど国内の研究コミュニティの発展にも大きく貢献している.
以上のように徳田氏は,ソフトウェア科学および関連する分野において,独創的な研究を進め,顕著な成果をあげてきた.よって本学会はこれを称え,フェローの称号を授与する.